30年近く前になりますが、神奈川県立近代美術館でジョゼフ・コーネルの企画展が開催されました。当時から心惹かれるものがあり、その時に鑑賞した記憶はずっと引き継がれ今に至っています。
春に新聞で開催企画展の予定一覧を見ていて、ふとこの「ジョゼフ・コーネル」を目に留めました。場所は千葉県佐倉市の「DIC川村記念美術館」、行ったことのない美術館でした。会期は6月16日まで、そのギリギリのタイミングで行くことができました。(写真は1992年刊行の図録で当時入手したもの。鎌倉近代美術館ほか、滋賀県立美術館、大原美術館、そして今回訪ねた川村記念美術館の編集)
梅雨空のなか、山行を計画していた友人と山には行けそうもないと、高速を飛ばして一緒に佐倉に向かいました。朝は泣き出しそうだった空も、千葉に近づくにつれ明るくなってきて最後には青空ものぞくほど、この日は千葉方面はわりとよかったようです。着いた美術館は緑に包まれ広々とした庭園というか森のなかにあり、ここだけで一日ゆっくりと豊かに過ごせるような場所でした。
好きな作家の企画展というだけでなく、すっかりこの美術館自体に魅了されてしまいました。ロマネスク風の塔のようなエントランスからの導線は、常設展示の部屋部屋を鑑賞しながら進んでいき、最後に“お目当ての”企画展に辿り着くようになっていました。
所蔵作品も充実していて、いわゆる印象派などの有名どころの作品からだんだんと抽象や現代アートに導かれていきます。若い時代に数多くの展覧会を見てきた自分にとって、それはピックアップの銘品揃いで、まるで美術鑑賞のタイムトラベルをしているような感覚でした。懐かしい作家、学生時代に熱心に見てカタログを繰った作家など…次々とかつての記憶に残る作品に出会える時間なのですから。
ジョゼフ・コーネル*の作品でやはりもっとも印象的なのは、手作りの木箱のなかにあちこちで集めた小物を並べた「箱」の作品でしょう。実際、私の記憶の殆どを占めていたのも、この箱の数々です。その箱作品を模して作られた和菓子と抹茶のセットが、館内の奥まった所にある茶室で振る舞われていました。
金沢の老舗「村上製菓所」が制作したオリジナル菓子『星の箱』 当然、作品鑑賞のあとにこの茶席にて美しいお菓子をいただきました。まったく食べてしまうのがもったいないとはこの事で、しばし眺めて鑑賞。透き通った「箱」のなかには錦玉羹と星型の羊羹が浮かんでいます。そしてお菓子の手前には青と白の小さな金平糖、しかしこの金平糖は絶妙に塩味が勝った口直し?の美味でした。お見事!
作品だけでなく、こんな余興?まで加わった美術館での時間は、なんとも贅沢のひとこと。慌ただしい日常からひととき離れ、心のオアシスを十二分に味わった梅雨の一日でした。
*ジョゼフ・コーネル(1903-1972)は、ニューヨークの古書店や雑貨店で探し求めたお気に入りの品々を、手製の木箱におさめた「箱」の作品で知られるアーティストです。書物の切り抜きや絵画の複製写真、コーディアル・グラスやコルク球といった小物は、箱の中に配置されると互いに詩的な連関を帯びて響き合い、暗示的なイメージとして作家の世界を構成します。(DIC川村記念美術館HPより)