一ヶ月の個展が終わり、その後のもろもろの仕事も何とか短期間で一段落させました。というのも先回登場した来日の在米友人Sさんのたっての要望で山形への旅を計画していたからです。個展準備の最中、彼女の目的や希望をメールで拾いながら地図と首っ引きで行く先や行程を思案し計画、自分の旅計画とは違った苦労がありました。しかしそのおかげで思ってもみなかった山や人との出逢いがあり、一味もふた味も違う旅をすることになりました。
写真の山は左が女加無山(めかぶやま)、奥の平らなのが男加無山(おかぶやま)です。秋田と山形の県境を成す丁岳(ひのとだけ)山地の一角に位置しています。今回、Sさんが研究している事柄(文献)にまつわる地域ということで、私も初めて知った山域でした。
おいそれと登れる山でもなく、そもそもSさんは登山をしません。この山容を眺めたいという強い希望でしたので、事前に地元を管轄する真室川町役場の道路管理(現場を知っている部署)に電話をして調べました。聞き出したのが、八敷代(はっしきだい)という部落にある橋からの眺めがいいとのこと。地図を頼りに八敷代という地区には辿りついたのですが、はてさて…その橋とは??
人影の殆どない地区内をウロウロ、レンタカーで走っていると一軒だけあった店(酒屋さん)を見つけ、すかさずSさんが声をかけ尋ねます。と、そこに登場したのがこの先代ご主人。あそこだここだと説明しているうちに「どれ、オレも一緒に行くんべかな…」と、最高の道案内人に同乗してもらっての加無山見学となりました。
たまたま出逢ったこの方は、昔 郵便の仕事をしながら40年ほど猟師もしていたとのことで、近辺の山には誰よりも精通してらしたのです。御年86歳、今では足腰悪く歩くのがちょっとしんどそうでしたが、山が大好き。
「山はいいなぁ〜・・・」「山の匂いがいい」「山に来ると命がのびるよぉ」と何度も繰り返すその温かみのある山形訛りの言葉に、私はなんだか胸がいっぱいになっていました。そして同じ山好きでも、生活の中に山があり、恩恵も厳しさもすべて共に暮らしてきたこうした人の“好き”は、自分の「好き」とは土台違う・・・とも感じました。
この方のおかげで、初日に計画していたSさんの最大目的は見事に叶い、しかも思いがけずに地元の話も多く伺うことができました。未知の場所の知らなかった山でしたが、おかげで忘れられない山となりました。