長野県の霧訪山・きりとうやま、この美しい名前を持つ山を知ったのは数年前。ちょうど山頂に翁草が咲いている時期でしたが、保護されている翁草はあまりにささやかで、拍子抜けするほどでした。が、予定していなかった下山コースに取った大芝山には足の踏み場がないほどの花が咲いていて、思いがけない春の贈り物に大感激だった思い出があります。
さて、前回は車での訪問でしたが、今回は鉄道利用で最寄りの「小野駅」から歩く計画です。鉄のプロでもあるM氏が念入りに立てた登山計画は、中央本線の支線的存在の塩尻〜辰野間「大八廻り」を利用して訪ねる山旅でした。
かつての中央本線(中央東線)は岡谷〜辰野〜塩尻で、現在の塩尻峠・みどり湖経由ではありませんでした。これは伊那谷経由ではなく木曽谷経由に決定された中央西線ルートを伊那谷出身の代議士で鉄道局長だった伊藤大八が政治的采配にてせめても伊那谷入口の辰野経由にしたということから、これを「大八廻り」と呼ぶわけですが、当時の技術では塩尻峠にトンネル貫通させる事が厳しかったという理由もあるそうです。
ともあれ、かつての本線の面影も消え、終日同じ2車両(ワンマン)が行ったり来たりしているこの歪曲した辰野支線に乗車し「大八廻り」を実感しつつ霧訪山を訪ねるというのが今回の計画なのです。
小野駅から国道を歩き、弥彦神社を左に入ると長閑な田畑が拡がる里山風景となります。ほどなく登山口、しかしそこからの登りは始めから急な階段、時折傾斜が緩みますが、全体かなりの急登です。
当日は途中の「スーパーあずさ」からも甲斐駒や八ヶ岳が美しく見えましたが、高曇りながら無風で遠くの山並みがクリアーに見通せる登山日和でした。上の写真は山頂から見えた穂高連峰や右端の黒っぽい三角は槍ヶ岳です。目を転じるとその先には後立山連峰の真っ白になった山並みが、爺ヶ岳・鹿島槍ヶ岳・五竜岳・そして蓮華岳・白馬岳とつづき、ちょうどその方面に雲の切れ間から差し込む光によって、白い高嶺がスポットライトを浴びたようにより真白く輝く様が見て取れました。しばし山頂にて、光と白銀のパノラマ劇場に酔いしれました。