当日は登りでは霧と雨、下山時に漸く雨が上がりました。
写真は途中の974mピークから未丈ヶ岳の方を見ていますが、
山頂はガスの中に隠されています。
この越後の銀山平近くにある奥深い山を知ったのは、まだ山を始めてさほど時間がたってはいなかった頃と思います。とても地味な山で、たいていは気にも留められない山です。が、何故かずっと‘思い続けてきた’山であり、それを決定づけたのは丹羽彰一氏の『残照の山々』(白山書房)所収『「秘密の出口」から未丈ヶ岳』でした。
丹羽さんが挑戦された30年近く前と違い、今では徒渉箇所手前の崖には鎖が、最後の黒又川を渡る地点には鉄製の橋が設置されていて、しかも登山道は明瞭で当時のような藪漕ぎの連続ではありません。それでも私にとっては、今回、山仲間のK氏がリーダー役を買って出てくれたおかげで登れた山でした。
長年の憧れの山は終始ガスの中でした。けれど自分の心は満足でした。それは登頂できた喜びと言うより、登山口である「秘密の出口」=トンネルの非常扉を開けた瞬間から未丈ヶ岳に誘われ、沢を辿り徒渉し、山道を歩き、一日その山中に居られた幸福感でした。そして帰路に雨が上がり、途中のピークから未丈ヶ岳の山容を画帳に描けたのも幸せでした。最後まで山頂の一部にまとわりついてそのピークを隠していた霧も、かえって「憧れの山」がそのまま夢のように思い続けられると感じ、よかったと思うのです。